前橋家庭裁判所桐生支部 昭和38年(家イ)20号 審判 1963年7月01日
申立人 佐藤昌子(仮名)
右法定代理人親権者母 小山和子(仮名)
相手方 小山敏男(仮名)
主文
相手方は申立人を認知する。
理由
本件申立人は、戸籍上、佐藤勇と大木和子(現在小山和子)の二女となつているが、右両名は、昭和三四年一一月一六日事実上離婚し(昭和三六年一〇月二三日正式の離婚)、それ以来全然夫婦の交渉はない。一方申立人の親権者母小山和子(右大木和子)は相手方小山敏男と昭和三五年一〇月より同棲し、現在は、婚姻届も経て同人と正式に夫婦として生活しているもので前記佐藤勇と事実上の離婚をして以来、相手方以外の男とは全然性的交渉はない。従つて申立人は、戸籍上前記佐藤勇の嫡出子と載されているが事実と相反する。そこで本来なれば右戸籍上の父より嫡出子否認の訴をなし、勝訴の裁判を経て、事実上の父である相手方から申立人を認知し戸籍の訂正を行うべき筋合であるが右佐藤勇は、現在行方不明であるので直接申立人から相手方に対し調停において認知の合意を得た上、これに相当する審判を求めるというのである。
よつて按ずるに、本件申立事件の調停において当事者間に相手方が申立人を自己の実子として認知する旨の審判を受けることについて合意が成立し、その原因の有無についても何等争いがなく、その他必要事実を調査した結果、申立人が本件申立の理由とする前記事実関係を全部認めるに十分である。そこで右のように夫と長期間別居して夫婦関係もなく、正式に離婚後も長期間所在不明である場合、妻が他の男との間に出生し、夫婦間の嫡出子として戸籍に記載されている子につき、右夫婦関係の存在しなかつたことが明瞭な場合には、事実上民法第七七二条にいう嫡子の推定はないものと解するを相当とし、その戸籍上の子から事実上の父に対する認知の請求が認められるべきである。よつて調停委員の意見を聴き申立人の本件申立を理由ありと認め、主文のとおり審判する。
(裁判官 石川季)